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漢方薬で痩せる? 中編

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前編
では主に小林製薬のナイシトールのキャッチコピーについて所見を述べましたが、今回はそのキャッチコピーの科学的根拠(エビデンス)について述べたいと思います。


まず根拠/証拠の質やその強さ、エビデンスレベルについて理解する必要性がありますが、以下の画像を引用しつつ簡易説明に留めます。折につけ説明はしようと思っていますが、詳細についてはBurnsらの論文やWikipediaを参照すると良いと思います[1,2]。

また記事『ダイエット情報について』でもこういった《Strength of Evidence:証拠の強さ》について触れています。

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©Compound Interest 2015. compoundchem.com
※この証拠の強弱/質的階層を絶対視するのは科学的に誤った姿勢です。それぞれの研究手法はそれ自体に欠陥を内包するので、相互に補完しあうことで情報の信用性が高まります。

踏まえて『小林製薬の漢方・生薬 - 防風通聖散 - 研究結果』より『防風通聖散は、お腹の脂肪を落とすための漢方薬です』という主張を裏付ける研究を見てみましょう。

 

【効果01】お腹の脂肪を落とす

本ページには研究の詳細が記されておらず、全く論文を精査できなかったので原著を探してみました。当該研究は恐らく以下の論文です。

赤木淳二ほか. 一般用漢方製剤「防風通聖散エキス錠」の内臓脂肪低減効果. 新薬と臨牀 68(6): 766-779 2019

しかしこの論文は抄録すら内容確認できず原著の確認は諦めました。ですから以下のニュースリリースが現時点で一般人が最も深く当該論文を精査できる情報源だと思います。

~鍵は「代謝時の脂質利用率アップ」にあり~内臓脂肪を減らす漢方薬"防風通聖散"の効果実証!

上記より気になる点を列挙します。恐らく原著の『研究の方法』にはこれらを精査する情報が記されていると思います(思いたいです)。

  • 対照群を置いた無作為化がされているか不明
  • 被験者のベースラインデータが不明
  • 介入時の食事や運動が不明
  • 食事や運動のコンプライアンスが不明
  • 間接熱量計測定の精度
  • 測定のタイミングが不明

挙げると枚挙に暇がありません。前提として、この小規模な研究1つで小林製薬の主張が科学的に十分裏付けることができないことは、冒頭の図より明らかです。しかしそれ以上の欠陥がこのニュースリリースにはあります。

まず被験者の選定において《選択バイアス》の影響が除外できているか明らかではありません。被験者が前提として『痩せたいと強く望んでいる集団』である場合、結果に強く交絡する可能性があります。

こういった変数の影響を弱めるには被験者の選択に慎重になるとともに、対照群を設置し研究者の意図が影響しないように盲検化し集団を無作為に分ける必要性があります。対照群を置かない場合、服用と結果の関係性は曖昧になります。

被験者の介入前(服用前)の基礎情報も乏しいです。身体特徴、平均的な食事(平均エネルギー摂取や栄養組成)、運動習慣、既往歴などこれらは結果に交絡します。また介入前に体重を維持する期間を設けた方が好ましいです。

介入時の食事は最も重要です。エネルギー収支バランスが負であれば服用の有無を問わず、体重、腹囲、皮下脂肪、内臓脂肪は減少する可能性が高くなります。ここでも対照群の存在の有無によって結果の解釈が多様化します。

前提として負のエネルギー収支においては服用せずとも脂肪の酸化が亢進します。仮に食事において脂質の摂取量を不変あるいは微増させ糖質を減少させたとすれば、脂質の酸化がより亢進する可能性があります(脂肪がより減るということではありません)。

また安静時エネルギー測定のタイミングは、場合によっては食事の栄養組成の影響が生じます。

運動の影響も捨て置けません。仮に測定の1時間前に糖をより使う運動をしていたら、測定時には代償的に脂質の酸化が亢進する可能性があります。

つまり食事や運動の内容とその遵守は結果に強く交絡するので、服用の影響を精査する上で欲しい情報です。内蔵脂肪は著効例では47.5%の減少が認められたとありますが、食事や運動のばらつきが影響した可能性は捨て置けません。

測定法に関しては企業と大学の共同研究なのですからもう少しコストを払えなかったのでしょうか。

また『小林製薬の漢方・生薬 - 防風通聖散 - 研究結果』では被験者は男性14名とありますが、ニュースリリースでは男女23名?と読み取れます。より簡易にアクセスできる前者のページで女性を排除している点にバイアスを感じます。

以上から《消費者に開示されている範囲の情報において》この論文は《防風通聖散の効果・効能を裏付ける証拠とはいえません》。圧倒的に情報量が足りません。

【効果02,03】は前編でも触れましたが《動物試験》ですので(上の図を参照)、ヒトに適用できる証拠とは言えません。

赤木らの論文同様に出典情報が乏しく、消費者が簡易にアクセスできないのは問題だと思います。ただ本論文はPubMedに登録されており全文も確認できます[2]。また情報量は不十分ですがニュースリリースでも確認できます。

基礎研究である動物試験はヒト試験の臨床適用の上で重要です。しかし繰り返しますがこの論文の存在自体は効果・効能を裏付けません。例えば本研究でマウスに投与した防風通聖散抽出物は1.8g/kg/day及び3.6g/kg/dayであり、ヒトの投与量の20倍から40倍に相当しています。安全性評価を含むとすれば高用量の投与には妥当性がありますが、ヒトにおける証拠としては弱いことがわかると思います。

以上から小林製薬が主張する《効果・効能》を裏付ける証拠は《科学的に十分な質/量に達していない》と思います。小林製薬は末尾に『~必ずしも全てのヒトに同様な効果が得られるとは限りません』と注意書きをしていますが、それが科学的手法であれば《必ず全てのヒトに同様の効果は得られない》のが前提ですから何をも説明していません。

あと1つ2つ論文を紹介するつもりでしたが、今回も長くなったので次回に回します。ここまで長くするつもりは全然なかったのですが、文章力不足を痛感しました。この辺は少しずつ改めると共に、折を見てリライトしていけたらと思います。

 

■Reference

1. Burns PB et al. The levels of evidence and their role in evidence-based medicine. Plast Reconstr Surg. 2011 Jul

2. 「根拠に基づく医療」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版

3. Akaki J et al. Promotive effect of Bofutsushosan (Fangfengtongshengsan) on lipid and cholesterol excretion in feces in mice treated with a high-fat diet. J Ethnopharmacol. 2018 Jun