おっさんのウエイトマネジメント

おっさんの体重/体型管理用の記録/備忘録

基礎代謝が低いと太る?

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ダイエット情報では《基礎代謝》という用語をよく目にします。多くの場合、この基礎代謝は肥満や痩身と強く関連付けられて情報発信されており、多くの人はこれを受け入れていると思います。

では太ったのは《基礎代謝が低いから》でしょうか。隣人が痩せているのは《基礎代謝が高いから》でしょうか。《基礎代謝の個人差》が体重にどう影響するか所見を述べたいと思います。
※一般に《基礎代謝》を省略あるいは意味して《代謝》と表現することがありますが、《代謝》は異化(化合物の分解)と同化(化合物の合成)反応を意味する《新陳代謝》の略語であり、基礎代謝を指すわけではありません。

 
結論としては、《基礎代謝の個人差》は体重増減の予測因子として弱く、ダイエット&フィットネス情報で頻繁に目にする基礎代謝を◯◯すると△△になる》という理論は科学的に十分裏付けられていません。以下に根拠を説明します。

 

はじめに《基礎代謝率/量(BMR/BEE)》は生命活動を維持する為の必要最小単位のエネルギー量を指しますが、測定条件が厳格*なので研究では制限の少ない《安静時代謝率/量(RMR/REE)》が用いられることが多いです。RMRはBMRより僅かに消費量が多くなりますが、以下では研究を主体に説明しますので便宜上両者を同義として扱います。
BMRは施設で 8時間の睡眠、12時間の絶食後の覚醒時に仰臥位で測定されるのに対し、RMRは測定前に施設宿泊の必要はなく仰臥位に固定もされません(座位も可)

基礎代謝の高低は《体質》としてよく表現されます。ではたくさん食べているのに痩せている人たちは基礎代謝が高い《太りにくい/痩せやすい体質》なのでしょうか。また全然食べていないのに太っている人たちは基礎代謝が低い《太りやすい/痩せにくい体質》なのでしょうか。科学的に検証してみましょう。

1997年のSpartらの研究では40人の被験者を対象にRMRと除脂肪量(FFM)の組成との関係を調べました[1]。研究ではRMRの分散要因の83%はFFMと体脂肪量(FM)で説明されましたが、17%は説明がつきませんでした。

2005年のJohnstoneらの研究ではスコットランドの白人150人を対象にBMRの分散要因について調べました[2]。分散の63%はFFM、6%はFMで説明されましたが、26%は説明がつきませんでした。

つまり似た体型にも関わらず《あなた》と《あなた》のBMRは17%〜26%異なる可能性があります。この説明のつかない分散を指すなら確かに《体質》といえるかもしれません。

ここでわかりやすくBMR定量化してみましょう。厚労省資料を基に女性(18~49歳)の大凡のBMR(基準体重50~53kg)を1200kcal/day、上記研究より説明のつかない分散を20%(±10%)と仮定し試算してみます。

1080kcal~1200kcal~1320kcal

最もBMRが低い者と最も高い者の差は20%の分散で240kcal/dayになります。少ないとは言えませんが、世の女性たちが我が身を嘆く理由としては控えめといえそうです。

また1日の総消費エネルギー(TEE)にRMRはどの程度影響するのでしょうか。2004年のDonahooらのレビューではRMRのTEEへの変動係数は5~8%でした[3]。

上記例の平均BMR1200kcal/dに活動係数を《普通:1.75》で掛けるとTEEは2100kcal/dとなります。これを基にTEEへのRMRの影響を標準偏差(SD)±8%で試算します。

1932kcal~2100kcal~2268kcal

最もTEEが低い者と最も高い者の差は336kcal/dayになり、これは母集団の約70%がこの範囲に収まることを意味します。母集団の95%が収まる2SD(標準偏差の2倍)では最低値と最大値の差は772kcal/dayにも及ぶ可能性があります(68–95–99.7則)。

これは《太りやすい体質:-2SD》と《太りにくい体質:+2SD》が食事をした時、+2SDが2人前近く余計に食べても-2SDと体型が類似する可能性を示唆しています。しかし無作為に選んだ《あなた》と《あなた》の差がここまで開く可能性は非常に低い*です。
※どれくらい低いか数値化してみます。正規分布に従うと仮定した集団から無作為に2名を選択した時、一方が-2SD以下でもう一方が+2SD以上である確率を標準正規分布表に基づき概算すると、0.158×0.158となり約2%です。両者の差が開くほどにこの確率は下がっていきます。772kcal/dayもの差ともなると1%未満になり統計的に価値を見いだせない値になります。


では実際に『私の代謝は低い/悪い』と自己分析する人を測定した一例を紹介しましょう。

■Vox - Julia Belluz
What I learned about weight loss from spending a day inside a metabolic chamber.


筆者は隣人がジャンクフードなど好き勝手に食べているのに痩せているのに対し、自分が注意深く体重管理をしないとすぐに体重が増えてしまう原因を《slow metabolism》だと考えていました。《slow metabolism》は日本語訳でしっくり来るのは《代謝が低い/悪い=太りやすい体質》だと思います。
※《代謝が低い/悪い》というダイエット用語は私は好みません。特に《悪い》という表現は多くの場合、不適切だと思っていますが、便宜的に用います

そこでアメリ国立衛生研究所(NIH)で《代謝測定室》《二重標識水法》《Metabolic Cart》を用いて代謝率を測定しました。
代謝測定室:metabolic chamberはエネルギー代謝測定のゴールドスタンダードです

結果は筆者の代謝率は研究者が年齢、身長、性別、体重から予測*した値と一致しており、代謝が低い/悪い》ということはありませんでした
※結果報告をしている研究者がNIDDKのDr. Kevin Hallであることから、NIDDKの予測式だと思います。

筆者1人の事例証拠に普遍性はありませんが、《代謝が低い/悪い》と思っている人の代謝率が体型相当だという一例といえるでしょう。

これらの証拠は、似た体型の《あなた》と《あなた》のBMR及びTEEは~350kcal/d程度の範囲に収まり殆どは横並びであることを示唆しています。

しかし『~350kcal/dでも1年、5年、10年ともなれば十分に肥満の要因といえる』と思う人がいるかもしれません。この《塵も積もれば山となる論》は『肥満と痩身の原因について』でその理論的欠陥を指摘していますが、では実際にBMRが低い人は将来肥満になるリスクが高くなるのでしょうか。BMRの高低は将来の体重を予測するでしょうか。

2016年のAnthanontとJensenの研究では、163名の被験者をFFM、FM、年齢、性別で調整しBMRの高い群(2001±317kcal)と低い群(1510±222kcal/d)の2群に分け、平均10年の体重変化を追跡しました[4]。

結果は、BMRが低い群は高い群より体重が増えませんでした。低BMRの体重への影響(-500kcal/d)は他の要因によって相殺可能であり、BMRが低いこと自体は体重及びその管理に強い影響を与えるとはいえません。つまり基礎代謝は将来の体重を予測しません

結論は冒頭の通りですがここまでをまとめると、基礎代謝を体型管理と強く結びつける必要はありません。ダイエット開始時の初期データとして活用すれば十分であり、それですら修正/補正を前提にした値でしかありません。あなたの体型管理において《基礎代謝が説明できる部分は少ない》です。またダイエット情報において体重減少を《基礎代謝の高低》で説明している場合、その情報源には注意が必要だと思います。

本記事は以上ですが、以下そういった情報源に関する余談です。

代謝率の主要な変数が年齢、身長、性別、FFM/FM、体重、未説明な部分であることが以上からわかります。この内、ダイエット&フィットネス産業が目をつけたのが《FFM》のうち《骨格筋》です。上の研究で示されたようにBMRやTEEの分散の多くはFFMで説明され、FFMの内、支配性が強いのは骨格筋量だからです。

では骨格筋及びそのための筋トレのBMRへの影響はどうでしょうか。

2015年のAristizabalらの研究では筋トレをするとRMRが増加する可能性が示されています[5]。

この9ヶ月の試験では週に3回、合計96回の筋トレをしています。内容はベンチプレスやスクワット、ハングクリーン、ラットプルダウンといった多関節から単関節まで全身のトレーニングを1RM、3~6RM、8~10RM、12~15RMと様々なトレーニング強度で行っています。つまりTVで門外の医師が推奨するような《基礎代謝を上げる◯◯体操》ではなく、求められる技術や総負荷量がより多い筋肥大や筋力を増やす為のトレーニングです。

結果は体重が有意に増加(2.3±3.0 kg)しましたが、体脂肪に有意差はありませんでした。筋トレがRMRに与えた影響は73.0±158kcalでした。この内、骨格筋の変化は1.73±0.9kgで、骨格筋がRMRに与えた影響は22.8±12.2kcal/dでした。
※タンパク質摂取量やエネルギー摂取量が少ないデザインが気になります。恐らく被験者らはデザイン以上にエネルギーを摂取したと思いますが、それですら足りないと思います。

この分散の大きいRMR増加の内訳はFFMとホルモン変動の影響を加味しても半分程度で、残りはどういう機序で増えているのかわかっていません。またRMRが増加したからといってそれが起因となって体脂肪が落ちるとは限らないことも示されています。

骨格筋は基礎代謝の18%程度であり1kgあたり日に13kcal程度の消費量です[6]。脂肪組織のエネルギー貯蔵量に対し非常に小さい効果といえますし、エネルギー収支バランスに相加的に負の圧力を掛けるわけでもありません。脂肪は4.5kcal/kg/day程度ですがエネルギーを費やしていますし、体重が減れば活動強度も減ります。また体重減少に比例して骨格筋も減少する可能性が高くなります。これらの影響によりエネルギー収支バランスの差は早期に収束します。

筋トレの体重減少に関する影響は、運動それ自体の物理的なエネルギー消費、生理的な食欲抑制、心理的な充足感や美意識の変化など多岐に渡りますが、ダイエット&フィットネス情報が説明する《筋肉を増やして基礎代謝を増やす→痩せる》は誇張であり、またそれによって脂肪が減るという説明に十分な根拠はありません。

以上、基礎代謝ってどうでもいいよねってお話でした。

[2020/05/25 update]

MacKenzie-Shalders, Kristen et al. “The effect of exercise interventions on resting metabolic rate: A systematic review and meta-analysis.” Journal of sports sciences, 1-15. 12 May. 2020, doi:10.1080/02640414.2020.1754716

先日、『安静時代謝に対する運動の影響の系統的レビュー/メタ分析』が発表されました。抄録だけでは不十分なので追って《運動と基礎代謝/安静時代謝》にフォーカスして本論文を別記事でレビューするかもしれませんが、さしあたりアップします。

18件の研究のメタ分析では筋トレ、有酸素、筋トレ+有酸素の内、筋トレのみが有意に安静時代謝量が増加しました(96.17kcal/day)。しかし本記事でも説明しているように、この系統的レビュー/メタ分析でも体組成変化と安静時代謝量の相互作用は不明な点に注意が必要です。

 

■Reference

1. Sparti A et al. Relationship between resting metabolic rate and the composition of the fat-free mass. Metabolism. 1997 Oct

2. Johnstone AM et al. Factors influencing variation in basal metabolic rate include fat-free mass, fat mass, age, and circulating thyroxine but not sex, circulating leptin, or triiodothyronine. Am J Clin Nutr. 2005 Nov

3. Donahoo WT et al. Variability in energy expenditure and its components. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2004 Nov

4. Pimjai Anthanont and Michael D Jensen. Does basal metabolic rate predict weight gain? Am J Clin Nutr. 2016 Oct

5. Aristizabal JC et al. Effect of resistance training on resting metabolic rate and its estimation by a dual-energy X-ray absorptiometry metabolic map. Eur J Clin Nutr. 2015 Jul

6. Müller MJ et al. Functional body composition: insights into the regulation of energy metabolism and some clinical applications. Eur J Clin Nutr. 2009 Sep