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漢方薬で痩せる? 前編

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漢方薬に減量を促進する効果があるのでしょうか。


小林製薬の『肥満症に効く』という医薬品ナイシトールをCMで目にしたことがある人は多いと思います。CM演出を観る限りでは服用によって《脂肪が落ちる》《痩せる》効果、効能があると受け取る人がいてもおかしくありません。

実際にナイシトールの製品情報の【効能・効果】には『体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:肥満症……』と記載があります。

作用機序はよくわかりませんが商品紹介ページやCMでは以下のように説明しています。

  • 皮下脂肪と内臓脂肪を分解して燃やす
  • 余分な脂を便と一緒に出す

どういうものなんだろうと調べてみると、成分は《防風通聖散》という《漢方薬》でした。小林製薬によると防風通聖散は、お腹の脂肪を落とすための漢方薬です』だそうです。
ツムラの『ツムラ漢方防風通聖散エキス顆粒』、Kracieの『コッコアポ』なども防風通聖散であり、同様に脂肪を減らす効果を謳っています。

小林製薬(ら)が主張するように本当に《漢方薬防風通聖散》には減量を促進する効果・効能があるのでしょうか、小林製薬のキャッチコピーを基に所見を述べたい思います。

【皮下脂肪と内臓脂肪を分解して燃やす】

服用後数時間はそうかもしれませんが、1日~服用期間全体を通せば脂肪の収支は殆ど同じだと思います。

小林製薬のページにはエネルギー収支バランスへ言及がありませんので、 因果関係としてエネルギー収支バランスを前提に、服用後のエネルギー消費(DIT and/or RMR)の変化を最小と仮定します。この時、脂質の酸化が亢進するならば、糖質の酸化は減退することで糖由来のエネルギーは保存されます。しかし人体の糖の貯蔵庫は有限であり、糖を基質にした脂肪合成(De Novo Lipogenesis)は代謝コストが高いので、糖の脂肪変換も基本的に起こりません[1]

その為、時間経過と共に糖質の酸化が代償的に亢進し(脂質は減退)、脂肪収支はバランスする可能性があります。人体は部分的変化が大きな全体変化として影響しないように調整しています(ホメオスタシス)。1日単位で調整されることもあれば、中長期的な適応によって初期の差は収束する可能性もあります。

この主張には代謝測定室など高精度な科学的手法によるエネルギー代謝測定を行うなど、《理論を補強するデータの必要性を感じます》。

【余分な脂を便と一緒に出す】

その排出量がわからず費用対効果として妥当とは思えません。

《余分》は人間が健康/社会/環境問題などから《肥満》を概念/定義付けることによって生じた《基準》との《相対値》として把握できるのではないでしょうか。

セットポイント理論などを背景にすれば、一定の脂肪量を保とうと食欲系や適応熱産生、非活動性代謝などに恒常性が働き、《余分》が補正される可能性はありますが、それは消化吸収障害としての働きではありません。

消化吸収の生理機構において過不足の基準となるような《量》があるのでしょうか。なるほど『日本人の食事摂取基準』の脂質の目標量を超える量は一般に《余分》といえるかもしれません。《防風通聖散》はその過不足に沿う形で特異的に働くのでしょうか。逆に脂質が不足している時はどうなるのでしょうか。それでも定量を余分として排出するのであれば服用には配慮が求められます。

この《余分量》は糞便の脂質含有量から分析できますが、小林製薬の脂質排出に関する根拠論文は《ヒト試験》ではなく《動物試験》なので《エビデンスレベルが低く根拠として弱い》です。《防風通聖散》の服用でヒトが排泄する脂質の平均量はわかりませんので、その効果もわかりません。
※論文の出典情報が少なく一般消費者が当該論文を簡易に確認できないのは、製薬会社としての科学的根拠に基づく姿勢に疑念を抱きます。

従ってこの主張にも《理論を補強するデータの必要性を感じます》。

ところで《脂肪/脂質排出》を謳うダイエット食品/サプリメントは少なくありません。それぞれ作用機序も効果量も異なるでしょうが《どれくらい排出するのか》参考にはなるかもしれません。

例えばサントリー特定保健用食品黒烏龍茶』も『脂肪の排出量をふやしてくれます』と効果を謳っています。トクホは『有効性の証明として、査読付きの研究雑誌に掲載されることが条件』ですから、その根拠論文(ヒト試験)は参考になると思います。国がその機能を表示して良いと認可した《脂肪/脂質排出量》とはどれくらいなのか、Hsuらの研究を確認してみましょう[2]。

利益相反、サンプルサイズ、追試や再現研究の有無、選択バイアス、性差などなど気になる点は多々ありますが、今回はその辺は無視します。

  • 男性1993kcal(脂質62.3g)、女性1675kcal(脂質49g)の基本食
  • ポテトチップス636kcal(脂質38g)を昼食と夕食後に半分ずつ(19g+19g)
  • 毎食後にポリフェノールを強化した烏龍茶250ml(計750ml)

3日間のポリフェノール強化烏龍茶飲用による合計脂質排出量は19.3±12.9gです。プラセボ9.4±7.3gです。介入群は有意に排出量が増加していることから、研究者は烏龍茶は脂質排出量を増加させると結論づけています。

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サントリー『黒烏龍茶とは?』より

図を見ると排出量が倍増してさも効果があるように見えます。しかし数字をみると偏差が大きいのもさることながら、平均差は3日間で9.9gですから1日あたり3.3gで、カロリー換算すれば1日あたり30kcal程度です。


1日87g~100gほど脂質を摂って、毎食後に黒烏龍茶(計750ml)を飲んで、排出量は30kcalです。黒烏龍茶350mlの希望小売価格は160円のようなので、高脂質食生活において、1日2本320円以上を費やして、-30kcalの利益が得られるかもしれないということです。小さじ1杯の油を削減するか、ポテトチップス2~4枚我慢すればコストは0ですので、《肥満予防や減量促進目的》で飲用するには一考の余地があるかもしれません。

このように《国の認可がある》《統計的有意である》ということは必ずしも我々の実益として反映されるわけではありません。効果の大きさや費用対効果が妥当といえるか、内容を精査することは無益ではないと思います。

では小林製薬(に限らず)の《防風通風散》の根拠はどうでしょうか。上記で少し触れましたが、次いで根拠論文や関連論文、漢方に関する論文についてもう少し具体的に述べようと思い……ましたが長くなるので次回にまわしたいと思います。

 

■Reference

1. Acheson KJ et al. Glycogen storage capacity and de novo lipogenesis during massive carbohydrate overfeeding in man. Am J Clin Nutr. 1988 Aug

2. Hsu TF et al. Polyphenol-enriched oolong tea increases fecal lipid excretion. Eur J Clin Nutr. 2006 Nov