おっさんのウエイトマネジメント

おっさんの体重/体型管理用の記録/備忘録

運動とエネルギー収支バランス

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自粛を機に積読積みゲーの消化に勤しみ、そのお供に菓子を貪り食べていましたが、いい加減やばいのでまたのんびりと減量と筋トレを再開しようと思います。定期的な減量記録はするつもりはありませんが(今測ると絶望しそうなので)、減量と筋トレの動機づけの為に記事ものんびりと再開しようと思います。

今回は運動でカロリーを消費しているのに思ったほど体重が減らない要因について考えてみます。

 
体重増減の原因はエネルギー収支バランスである

この理論は現時点で科学的に最も強い証拠に裏付けられています。例えば脂肪を減らす為にダイエッターが行う有酸素運動も、エネルギー収支バランスが維持されていれば、脂肪の収支も維持されるように[1]。

しかし、この理論を基に単純なカロリーの差し引き(Calories In, Calories Out : CICO)で体重/体型管理を行っているダイエッターの中には、この最も堅牢な理論が自身に反映されないことを実感している人もいると思います。

《原因》がわかっているからといって求める《結果》を得られるとは限りません。多くの場合、私たちに実利をもたらすのは《要因》の理解であり、私たちに混乱をもたらすのは《要因》の無理解だと思います。相関は因果を含意しませんが、相関を理解することは時に因果を知るより実用的な側面があります。

CICOが機能しない《主因》は恐らく低いカロリーカウント精度だと思います。摂取カロリーを過少評価し消費カロリーを過大評価する傾向は多くの研究で確認されています。この主客の不一致を修正/補正することはCICOを用いる上では重要です。

また修正/補正の対象はCICOの定量性に限りません。エネルギー収支バランスの構成要素は独立していません。互いに作用することで複雑な様相を示します。例えば私たちの《意識》がカロリーカウントの精度を修正/補正したとしても、私たちの《無意識》もエネルギー収支バランスを修正/補正する可能性があります。

ヒトの生理機構には《何かを多く使えばその後に節約する性質》があります。例えば有酸素運動で脂質を多く使えば、運動後には脂質は節約され糖質を多く使います。無酸素運動で糖質を多く使えば、運動後には糖質は節約され脂質を多く使います。このようなミクロな運動(生体内物質の移動:代謝)のcompensatory(代償/補償的な)作用は、マクロな運動(身体の移動:エクササイズ)でも発生する可能性があります。

では『運動しているのに思ったほど痩せない』という事例において、compensatory behaviors:代償行動が影響しているのでしょうか。

主にランニングなど有酸素運動は減量を促進する運動として認知されていますが、有酸素運動の独立した減量効果は大きいとはいえません[2]。有酸素運動など消費量特化の運動は《食事療法を除外する場合》予測値や期待値を下回る可能性があります。

その要因の1つはベースラインのエネルギー収支バランスを《静的》に捉え、そこに運動のエネルギー消費を《相加的に計上》する理論的欠陥があげられます。

例えば、ベースラインの1日の総消費量(TEE/TDEE)を予測式を用いて算出しそれが実測値と近似しているとします。◯kcal消費する運動を追加するとすると、多くの人は単純にTDEE+◯kcalでエネルギー収支に計上すると思います。しかしCICOが体重に上手く反映されない人においては、ここに見落としがあるかもしれません。

 

Donnellyらの中強度運動の長期的影響に関する無作為化比較試験(RCT)をみてみましょう[3]

この16ヶ月の長期試験では、17~35歳の男女(n=74:運動群44名 非運動群30名 BMI:25~35)に食事制限なしの自由生活で中強度有酸素運動トレッドミル)を1回あたり400kcal(2000kcal/week)させました。
※実際の1回あたりの運動消費量は男性は667.7±116.4kcal 女性は438.9±88kcalでした。

結果は男性の運動群は体重及び脂肪が減少(5.2±4.7kg : 4.9±4.4 kg)し、女性は非運動群が体重を増加(2.9±5.5kg)させましたが、運動群は体重は維持されました。適度な運動習慣は体重管理に効果的であると結論づけています。

本研究では運動で男性667.7±116.4kcal 女性438.9±88kcal消費しましたが、TDEEは男性371±646kcal 女性209±555kcalの増加に留まりました。男性は体重/脂肪が減少しているのでそれに伴うTDEEの減少が起きてもおかしくありませんが、女性は体重が安定したので、TDEEの構成要素が代償的に変化(運動消費のおよそ50%)した可能性があります。

このDonnellyらの研究Midwest Exercise Trial(MET1)では男女の消費量に差がありますが、同研究者らによるMET2では消費量を整えています[4,5]。この10ヶ月の長期試験MET2では、600kcal消費した群ではTDEEは有意に増加していますが(しかし運動消費量と同等ではありません)、400kcal消費した群ではTDEEは有意に増加していません。

ではなにが影響しているのでしょうか。

一般に運動の代償行動として疑われるのが非運動性熱産生(Non-Exercise-Activity Thermogenesis : NEAT)ですが、[5]では非運動性の活動量/エネルギー消費量は関連しておらず、座りがちの肥満者が運動によって運動以外の活動量が減少したり、座りがちな活動時間を増やさないことが示唆されています。

またWashburnらは運動がNEATに与える影響に関して、1990~2013年までの研究を系統的にレビューしています[6]。このレビューでは運動がNEATに大きな影響を与えることを示唆する証拠は見つかりませんでした。この時点で揃う証拠には方法論的欠陥があり、より高度に設計されたRCTの必要性があるとまとめています。

普遍性の観点では代償行動としてNEATが減少する証拠は乏しいといえますが、論文では代償行動が示されなかった研究の年齢は中央値は44歳であり、高齢者の代償行動の可能性を示唆しています。同様に以下の論文では一定の個体において代償行動が示唆されています。

MET2では600kcal群は-5.2±5.6 kg(5.7%)、400kcal群では-3.9±4.9(4.3%)体重が減少しています。この約5%の体重減少は臨床的に意味のある値になります。しかしデータにかなりのばらつきがあるように体重減少が5%未満である個体も存在します。

Herrmannらはこれらの体重の反応の乏しいもの(Nonresponders:非応答者)を分析しました[7]。MET2では約46%が5%以上の減量を達成できませんでした。運動消費量は応答者と非応答者に違いはありませんでしたが、非応答者のTDEE増加は僅かであり(応答者より-168kcal/day)有意に増加していません。また非運動性の活動量/エネルギー消費量は非応答者は減少しています(男性で有意)。また食事量も増加しています(男性で有意)。
※運動による食事の代償行動に関して、ダイエット情報では運動をすると食欲が増えて食べ過ぎるといった主張もあり、Herrmannらの研究はそれを裏付ける結果(主に男性で)が示されています。しかし結論づけるのは早計です。運動と食欲に関しては異なる結果も複数示されており、食欲には様々な因子が交絡します。

Herrmannらの分析は運動によって思ったほど体重が減らない個体にとっては一考の余地がある内容といえるかもしれません。運動以外の時間の使い方も意識すると何らかの恩恵があるかもしれません。しかし根拠のない直感ではこれは基礎代謝にみられる説明のつかない分散に属するもので、意識の影響を強く受けないと思います。この恩恵を受けるのは皮肉にも運動の効果を実感するタイプの人じゃないかと愚考しています。
※生活全般の活動量を増やすこと自体は健康/美容で有益だと思います

Herrmannらの研究では体重応答の乏しかったものにTDEEやNEATへの影響が示唆されていますが、体重はTDEEの変数なので結果に交絡します。MET1やMET2では体重はコントロールされていませんでしたが、直近のHandらのRCTではこの体重という因子を除外しています[8]。

この26週の試験では、座りがちな男女60名(21~45歳、BIM25~35)を無作為に中程度の運動消費群、高い運動群、または非運動群の3群に分け、体重を維持しながら運動のエネルギー消費の影響を調べました。

結果は運動消費は同等のTDEE増加に結びつかず、性差による特異的な調整や体重に依存しない代償反応が示唆されたと結論づけています。

まとめると運動消費を単純計算で収支計上するにはやはり一考の余地がある、運動消費はTDEEを純増させるとはいいきれないとは言えそうですが、結論的な見解を打ち出すには質/量的に証拠が十分ではないと思います。

上記の研究から導けるのは《運動しているのに》《◯◯しているのに》と手段を過大評価しない方が好ましいということかもしれません。あるいは《運動したから》《◯◯したから》という思考には注意が必要かもしれません。

運動は健康面でも美容面でも多大な貢献をする極めて重要な手段ですが、エネルギー収支バランスの上では過大評価しない方が好ましいと思います。過少評価するかいっそ計上しないくらいの方が応用が効くと思います。

以上です。


■Reference

1. Melanson EL et al. When energy balance is maintained, exercise does not induce negative fat balance in lean sedentary, obese sedentary, or lean endurance-trained individuals. J Appl Physiol (1985). 2009 Dec

2. Thorogood A et al. Isolated aerobic exercise and weight loss: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Med. 2011 Aug

3. Donnelly JE et al. Effects of a 16-month randomized controlled exercise trial on body weight and composition in young, overweight men and women: the Midwest Exercise Trial. Arch Intern Med. 2003

4. Donnelly JE et al. A randomized, controlled, supervised, exercise trial in young overweight men and women: the Midwest Exercise Trial II (MET2). Contemp Clin Trials. 2012 Jul

5. Willis EA et al. Nonexercise energy expenditure and physical activity in the Midwest Exercise Trial 2. Med Sci Sports Exerc. 2014 Dec

6. Washburn RA et al. Does increased prescribed exercise alter non-exercise physical activity/energy expenditure in healthy adults? A systematic review. Clin Obes. 2014 Feb

7. Herrmann SD et al. Energy intake, nonexercise physical activity, and weight loss in responders and nonresponders: The Midwest Exercise Trial 2. Obesity (Silver Spring). 2015 Aug

8.Hand GA et al. The Effect of Exercise Training on Total Daily Energy Expenditure and Body Composition in Weight-Stable Adults: A Randomized, Controlled Trial. J Phys Act Health. 2020 Mar