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肥満と痩身の原因について

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持病の慢性腰痛が悪化して(を言い訳にして)筋トレをサボったので、その時間をブログ記事に充てました。

日常会話で《何で太るのか》《何で痩せないのか》と言った話題は中年太りに苛むおっさんおばさんにはつきものです。

疑似科学やウソ情報のオンパレードですが、我々おっさんおばさんの話の骨子は、無駄話を楽しむことや、間を埋めることであって問題解決ではありません。

しかしなんだかんだで《食い過ぎと運動不足》に帰結することが多いです。人生折り返すと結論は現実的になるということかもしれませんが、この二項は主因として確かに挙げられると思います。

ここまでで十分な気がしますが、以下に肥満と痩身の原因について概略を書いてみたいと思います。

 


食品中の代謝可能エネルギーは脂肪組織にトリグリセリドとして、骨格筋や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられます(骨格筋や臓器自体もエネルギー基質として部分的に利用可能ですから、その意味ではこれらもエネルギー貯蔵庫ともいえるかもしれません)。

一方、食品や体組織から酸化プロセスを通して化学エネルギーを生成しあらゆる生命活動に使用しています。

エネルギーは大別して安静時代謝、食事誘発性体熱産生、活動代謝に費やされます。
※活動代謝は運動性だけでなく非運動性熱産生も含みます

このエネルギー収支の結果が体重として表れます。つまり

肥満の原因は持続的な《正のエネルギー収支バランス》

痩身の原因は持続的な《負のエネルギー収支バランス》

です。

ダイエット情報でよく見聞きする以下の式は物理法則のエネルギー保存則の生理的適用を表しています。

摂取>消費=肥満
摂取<消費=痩身
摂取=消費=維持

因果関係を表しているので単純な式になっていますが、相関関係を表す《収支バランスの構成要素とその相互作用》の情報量は膨大で非常に複雑です。相関は因果を含意しませんが、この複雑な関係は往々にして肥満の原因のように偽証されることがあります。

では偽証の典型例として糖質制限やケトジェニックダイエットを例にしてみましょう。
※別トピックで扱うべき情報量なので簡易説明に留めます。

これらのダイエット法の理論的背景として、ハーバード大のDr. David Ludwigらは肥満の原因をインスリンに見出そうとしました(Carbohydrate-Insulin Model of Obesity:CIM)。CIMではインスリンの以下の作用に着眼しています。

・組織へのグルコースの取り込みを刺激する
・脂肪組織からの脂肪酸の放出を抑制する
・糖質はインスリン分泌を最も強く刺激する

以上の作用からインスリンの追分泌は肥満を誘発すると主張しています。日本の糖質制限を推奨する専門家らも類似した説明をしていると思います。しかしこれらは以下の用語で理論的欠陥を指摘することができます。

・De Novo Lipogenesis
 ∟糖基質の脂肪合成DNLは一般食生活下では働かない
・Acylation Stimulating Protein
 ∟ASPは低インスリンレベルでも脂肪合成を促進する
・Hormone Sensitive Lipase
 ∟HSLは脂質摂取によっても阻害される
・Leucine
 ∟Leucineはインスリンの追分泌を刺激する

しかしCIM(信奉者)ではこれらは無視され論理的に飛躍します。

《糖質を制限することでインスリンの追分泌を抑制すれば、エネルギー収支バランスを超えて肥満予防、減量促進に貢献するはずだ》と。

しかし、米国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所(NIDDK)のDr. Kevin Hallらの堅牢な試験ではCIMは科学的に裏付けられずエネルギー収支バランスを超越しないことが実証されています[1]。また[1]を含むメタ分析でも等しいタンパク質摂取量、エネルギー収支バランスにおいて糖質、脂質の比率は殆ど影響しないことが示されています[2]
※[2]では低脂質食の方が僅かに痩せていますが生理的、臨床的に価値ある減量差とはいえず同等であると解釈するのが無難だと思います。

[1]は糖質が肥満の原因だと主張するジャーナリストのGary Taubesらが設立した医学研究組織Nutrition Science Initiative(NuSI)の出資で行われましたが、結果はTaubesらが期待するものではありませんでした。

同じくNuSIはスタンフォード大のDr. Christopher Gardnerらの研究に出資しています[3]。この12ヶ月の無作為化臨床試験では、健康的な低脂肪食と健康的な低炭水化物食では減量に有意差はなく、遺伝子型、インスリン分泌の相互作用は確認されませんでした。そしてエネルギー摂取量は同等でした。

さらにDr. LudwigらはCIMのエネルギー代謝的利点を主張していますが[4]、これもDr. Hallらによって方法論的欠陥が指摘されています[5,6]。

糖質制限から話がそれますが、代謝的利点に関連して《1日50kcalの小さい差であっても1年では18,250kcalとなり約2.5kgの脂肪に相当する》のような《塵も積もれば山となる論》をダイエット情報では目にします。

この論理はエネルギー収支バランスに基づいているように見えますが、エネルギー収支バランスを静的に扱う理論的欠陥があります。エネルギー収支バランスは動的であり相加的に脂肪の増減を推測するのは誤りです。このことは査読医学誌The New England Journal of Medicineに《肥満の神話》の1つとしてとりあげられています[7]。
※NIDDKの予測式はこの動的変化を加味しています。

話を戻して、どうでしょうか。糖質は肥満の原因であってエネルギー収支バランスを超越しているといえるでしょうか。

《収支バランスの構成要素とその相互作用》は減量に強くあるいは弱く相関するので、情報量が膨大になり難解です。これらを適当に処理できない場合、例えば《インスリンは肥満ホルモンだから抑制するほど利点がある》のような質の悪いダイエット情報で、肥満の原因を理解した気になってしまいます。ですがそれは誤解です。

持続的な《正負のエネルギー収支バランスが肥満/痩身の原因である》という理論は、現時点で最も強い証拠に裏付けられており、この理論を帰無仮説に棄却した対立仮説(例えばCIM)や科学的合意はありません。

ですから国民の健康を守る必要性のある先進国政府のガイドラインは科学的根拠に基づきエネルギー収支バランスの体系を採用しています。

厚労省策定「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より
『エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回る状態(正のエネルギー出納バランス)が続けば体重は増加し、逆に、エネルギー消費量がエネルギー摂取量を上回る状態(負のエネルギー出納バランス)では体重が減少する』

アメリカ農務省 Food and Nutrition Information Center より
『Energy balance in an individual depends on his or her dietary energy intake and energy expenditure. Imbalances between intake and expenditure result in gains or losses of body components, mainly in the form of fat, and these determine changes in body weight - 個人のエネルギーバランスは、食事によるエネルギー摂取量とエネルギー消費量に依存する。摂取と消費の不均等は主に脂肪として体組織を増加させ、これらは体重変化を決定する』

■英国公衆衛生庁 SACN Dietary Reference Values for Energyより
『Obesity results from a long-term positive energy imbalance - 肥満は長期に渡る正のエネルギー不均等に起因する』

最後に確率的に稀な事例や反証可能性を内包していることには注意が必要です。ダイエット情報では《摂取<消費》を絶対であるように扱う人がいますが、それも科学的に誤った捉え方だと思います。

例えば除脂肪組織が交絡することで正の収支でも脂肪が減るということは短期的に起こりえると思います(保存則は適用されるが)。

人体のグリコーゲン貯蔵量は《15g/kg body weight》程度であり、正味の脂肪合成が体脂肪増加に寄与するまで約500gの増加に対応できます[8]。

つまりグリコーゲンレベルが低値な場合~2000kcal程度までの糖由来のエネルギーは脂肪ではなく除脂肪組織に同化可能であり、一過性ながら正のエネルギー収支でも脂肪が増加しない、あるいは脂肪が減る可能性もあります。

エネルギー保存則の生理的適用と肥満との因果関係は最も多くの人々にとって《再現性》《普遍性》が科学的に裏付けられている理論である、この意味で不特定多数に向けて情報発信する場合はこの体系を用いるのが《公共性》《公益性》に適うというのが私の理解です。

以上、肥満と痩身の原因の概略でした。

 

Reference

1. Hall KD et al. Energy expenditure and body composition changes after an isocaloric ketogenic diet in overweight and obese men. Am J Clin Nutr. 2016 Aug

2. Kevin D. Hall & Juen Guo. Obesity Energetics: Body Weight Regulation and the Effects of Diet Compositio. Gastroenterology. 2017 May

3. Gardner CD et al. Effect of Low-Fat vs Low-Carbohydrate Diet on 12-Month Weight Loss in Overweight Adults and the Association With Genotype Pattern or Insulin Secretion: The DIETFITS Randomized Clinical Trial. JAMA. 2018 Feb

4. Ebbeling CB et al. Effects of a low carbohydrate diet on energy expenditure during weight loss maintenance: randomized trial. BMJ. 2018 Nov

5. Kevin D. Hall. Mystery or method? Evaluating claims of increased energy expenditure during a ketogenic diet. PLoS One. 2019 Dec

6. Mark I. Friedman & Scott Appel. Energy expenditure and body composition changes after an isocaloric ketogenic diet in overweight and obese men: A secondary analysis of energy expenditure and physical activity. PLoS One. 2019 Dec

7. Casazza K et al. Myths, presumptions, and facts about obesity. N Engl J Med. 2013 Jan

8. Acheson KJ et al. Glycogen storage capacity and de novo lipogenesis during massive carbohydrate overfeeding in man. Am J Clin Nutr. 1988 Aug