おっさんのウエイトマネジメント

おっさんの体重/体型管理用の記録/備忘録

エネルギー(カロリー)について

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ダイエットでカロリーを気にする人は多いと思いますが、『カロリーとはなんですか?』と問われて即答できる人は思いの外少ないのではないでしょうか。


人間は言うまでもなく自然法則に支配されています。手足を動かすにせよ、ブログを書くにせよ、脂肪細胞から脂肪酸を放出(脂肪動員)するにせよ、それは物理学的な運動、仕事であり、エネルギーが必要になります。

人体は開放系ですから食品や酸素を取り込み、二酸化炭素尿素、水、その他排泄物などを排出しています。人間も炭素循環、窒素循環の構成要素に過ぎませんので、炭素や窒素を日々得ては失い続けています。そしてこの代謝プロセス(酸化反応)によって《エネルギー/熱》を発生させています。

ところで《脂肪燃焼》という言葉は人口に膾炙していますが、燃焼によって脂肪がエネルギーに変換され消失するという誤解を生んでいます。エネルギーの基質から化学エネルギーを取り出しても《質量保存の法則》から総質量は変化しません。取り込んだ質量と排出した質量はバランスしています[1]。

一方、熱力学の第一法則《エネルギー保存の法則》ではエネルギーは生成も破壊も出来ず変換のみ可能であり、系に与えられた熱のエネルギーは他の形のエネルギーの増加分の和に等しくなります。

しかし糞便が燃焼することからも人体は食品のエネルギーを完全に保存することはできません。保存できないエネルギーについて国際連合食糧農業機関(FAO)のテクニカルワークショップレポートが参考になります[2]。

・未吸収の糞便中のエネルギー(FE)
・腸内菌の発酵による気体エネルギー(GaE)
・窒素含有廃棄物である尿中エネルギー(UE)
・体表面から失われるエネルギー(SE)

食品より(FE+GaE+UE+SE)を引いた値が代謝可能エネルギー(ME)です。これが人体が保存するエネルギー《生理的熱量》であり、私たちが食品表示で目にする《カロリー》です。

MEは人体が食品から奪う総エネルギーを標準化した値であって、人体が正味で代謝可能なエネルギー(NME)や身体活動に使える総エネルギー(NE)ではありませんが、FAOレポートではMEの継続利用に合意が得られています。

日本の食品表示カロリーは穀類、動物性食品、油脂類、大豆及び大豆製品のうち主要な食品は《日本人対象の実測値》、それ以外は《FAO/WHO合同特別専門委員会報告のエネルギー換算係数》、漏れた食品及び加工食品は《アトウォーターの換算係数》(糖質4kcal/g、脂質9kcal/g、タンパク質4kcal/g)が採用されています。

これらの値は民族差、個体差、個人内変動、健康状態などの変数の影響を受けますが、Diazらの過食研究[3]では理論値(ME)と、エネルギー消費測定のゴールドスタンダードである二重標識水法による実測値の一致が示されていることからも、MEは十分に機能するといえるでしょう。
※種実類など特定の食品に偏重するほど、理論値と実測値の差が大きくなる可能性があります[4,5]
※Leibelらのエネルギー消費量に関する研究では流体食ながら、糞便中のエネルギー損失は肥満度を問わず2%程度であることが示されています[6]。これはヒトの消化吸収率は高効率である証左であり、ダイエット情報で目にする『○○すると吸収率が増減するから△△』という理論は科学的にサポートされていません

また栄養表示基準ではエネルギー表示の誤差範囲は±20% (100g当たりの熱量が25kcal未満の場合は±5kcal)まで許容されていますが、運動科学の専門家であるMr Greg Nuckolsは、標準誤差20%では1ヶ月の平均絶対誤差は4.62%であり、実用性には影響しないと統計分析しています[7]

以上、カロリーの概略でした。

生理的熱量の概念を体型管理で用いるかは自由ですが、概略程度は理解しておいた方が好ましいと思います。
 

Reference

1. Ruben Meerman & Andrew J Brown. When somebody loses weight, where does the fat go? BMJ. 2014 Dec

2. Food and Agriculture Organization. Chapter 3: Calcualtion of the energy content of foods - energy conversion factors. In: Food energy - methods of analysis and conversion factors. FAO Food and Nutrition Paper 77. ISSN 0254-4725. Rome: Food and Agriculture Organization: 2003

3. Diaz EO et al. Metabolic response to experimental overfeeding in lean and overweight healthy volunteers. Am J Clin Nutr. 1992 Oct

4. Novotny JA et al. Discrepancy between the Atwater factor predicted and empirically measured energy values of almonds in human diets. Am J Clin Nutr. 2012 Aug

5. David J. Baer & Janet A. Novotny. Metabolizable Energy from Cashew Nuts is Less than that Predicted by Atwater Factors. Nutrients. 2018 Dec

6. Leibel RL, Rosenbaum M, Hirsch J. Changes in energy expenditure resulting from altered body weight. N Engl J Med. 1995 Mar

7. Greg Nuckols. Nutrition Labels Are Inaccurate (and the Math Behind Why It Doesn’t Matter). Stronger by Science. 2018 Jan