おっさんのウエイトマネジメント

おっさんの体重/体型管理用の記録/備忘録

食べていないのに痩せない?

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『私は少し食べただけでも太るし、全然食べていないのに痩せない』

この手の主張は珍しくありませんが本当でしょうか。今回はダイエッター達の《自己申告の精度》について所見を述べたいと思います。

 
結論としては、恐らくそれはただの《勘違い》です。求める体型/体重相当のエネルギー収支バランスに対して《食べすぎ》 and/or 《動かなすぎ》です。以下に根拠を説明します。

客観的事実は肥満/痩身の原因はエネルギー収支バランスであり、私たちの基礎代謝は正常であることを示しています。

『私は少し食べただけでも太るし、全然食べていないのに痩せない』

この文章において、結果の《太った/痩せない》を客観的事実と仮定します。この時、上記の因果関係から原因は《維持以上のエネルギー収支バランスであった》という可能性が非常に高くなります。つまり《私:主観》がその食事の《量や熱量》をどう評価しようとも、客観的には目的(減量や維持)に対して《過剰摂取》である可能性が高いということになります。

《私》が認識する主観的事実は《認知バイアス》の影響を受け、客観的事実と大きく異なる可能性があります。この前提を排除すると誤った結論を導きやすくすると思います。では以下に私たちの食事に対する主観的な量と客観的な量にどのような差があるか科学的に検証してみましょう。

自己申告に関する研究でとても有名な研究があります。最も権威ある医学誌の1つであるThe New England Journal of Medicineに掲載された1992年のLichtmanらの研究です[1]

肥満被験者のうち、1200kcal未満しか食べていない(と思っている)のに何度も減量を何度も失敗した経験がある10人(BMI33)をグループ1に、その経験を有さない残りの80人(BMI36)はグループ2に分け、彼らの摂取カロリーと消費カロリーの自己申告精度を調べました。

自身を《痩せにくい体質》だと思っているグループ1は1028±148 kcal/day摂ったと報告しましたが、実際の摂取量は2081±522 kcal/dでした。グループ1は1日の摂取量を平均1053 kcal(47±16%)過少評価しました
※グループ2は自己申告値1694±364 kcal/d、実際は2386±775 kcal/dで19±38%過少評価しました。

グループ1の被験者は身体活動に1022±185 kcal/d費やしたと報告しましたが、実際の消費量は771±264 kcal/dでした。グループ1は1日の消費量を平均251±286 kcal/d(51±75%)過大評価しました
※グループ2は自己申告値1006±265 kcal/d、実際は877±421 kcal/dで30±43%過大評価しました。

またグループ1の総エネルギー消費量や安静時代謝率は体組成による予測値の5%以内であり、《痩せにくい体質》という自己評価は誤りでした。

つまり肥満の要因を自己管理(食べすぎや運動不足)に認めず、他の要因(例えば低代謝率)に見出そうとする肥満者ほど、自己申告精度が低い可能性があります。かく言う私も20歳ごろは《少ししか食べていないのに太る》と自己評価し、《痩せの大食い》と対比して『太りやすい体質』なんて言っていました。愚かしいほどの客観性、定量性の欠如です。

根拠のない風説(痩せにくい体質など)にすがる傾向はConscientiousness(誠実さ)に連なる性格特性やニューメラシー(数量的処理能力)と相関がありそうですが、《肥満》と《自己申告精度》にも相関があります。2019年のWehlingの系統的レビューでは、BMIが30を超えると摂取量を大幅に過少報告することが示されています[2]。

 

では《痩せやすい体質》はどうでしょうか。《痩せの大食い》の自己申告値は実際の摂取量と近似しているのでしょうか?

1994年のClarkらの研究では非肥満の女性12名を自己申告によるエネルギー摂取量/消費量から《大食い》6名(摂取2675kcal/d 消費2030kcal/d)と《少食》6名(摂取1338kcal/d 消費2962kcal/d)に分けその精度を調べました[3]。

結果はエネルギー消費量は両群で自己申告値とほぼ一致(大2030kcal/d 少2699kcal/d)していたが、エネルギー摂取量は明らかに異なっていました(大2030kcal/d 少2579kcal/d)。この論文の結論は代謝率の高い女性(痩せの大食い)の存在を支持しないというものでした。
※《少食》の2人に自己申告値通りの食事を与えたところ、週に約0.75kgペースで痩せました。これらの結果は記事『基礎代謝が低いと太る?』と一致しています。

 

では《体質アピール》をしないような細身の隣人はどうでしょうか。友人知人の自己申告は参考になるでしょうか?

大学で栄養学を専攻する非肥満の日本人女性においても摂取量の過少報告が疑えることから、隣人(一般人)の自己申告には疑いの余地があるといえるでしょう[4.5]。

まとめると《肥満の少食》も《痩せの大食い》も《多くの一般人》も自己申告の信用性は低いということです。体型と明らかに合致しない自己申告に関しては、特に気に留める必要はありません。『へぇ~そうなんだ~』を相手が欲しいニュアンスで言ってあげれば十分です。以上です。
※自己申告精度の問題は友人知人の小さな集団をこえ公衆衛生にも関わります。食事ガイドラインに関わる米国国民健康栄養調査(NHANES)でもエネルギー摂取量の過少報告が指摘されています[6,7]。論文(栄養研究/栄養疫学)を読む上で研究手法による制限を理解する必要があると思います[8,9]。

 

■Reference

1. Lichtman et al. Discrepancy between self-reported and actual caloric intake and exercise in obese subjects. N Engl J Med. 1992 Dec

2. Helena Wehling and Joanne Lusher. People with a body mass index ⩾30 under-report their dietary intake: A systematic review. J Health Psychol. 2019 Dec

3. Clark D et al. Energy metabolism in free-living, 'large-eating' and 'small-eating' women: studies using 2H2(18)O. Br J Nutr. 1994 Jul

 4. Hitomi Okubo and Satoshi Sasaki. Underreporting of energy intake among Japanese women aged 18–20 years and its association with reported nutrient and food group intakes.Public Health Nutr. 2004 Oct

5. Masaharu Kagawa and Andrew P. Hills. Preoccupation with Body Weight and Under-Reporting of Energy Intake in Female Japanese Nutrition Students. Nutrients 2020

 6. Archer E et al. Validity of U.S. nutritional surveillance:National Health and Nutrition Examination Survey caloric energy intake data, 1971-2010. PLoS One. 2013 Oct

7. Kentaro Murakami and M. Barbara E. Livingstone. Prevalence and characteristics of misreporting of energy intake in US adults: NHANES 2003–2012. Br J Nutr. 2015 Oct 

8. Energy Balance Measurement Working Group. We Agree That Self-Reported Energy Intake Should Not Be Used as a Basis for Conclusions about Energy Intake in Scientific Research. J Nutr. 2016 May

9. Kevin D. Hall. Challenges of human nutrition research. Science. 2020 Mar