中編では小林製薬の提示しているエビデンスについて所見を述べましたが、後編では《防風通聖散》に関する他の論文を見てみようと思います。
といっても、軽く検索した限りだと質の高い文献は見当たりませんでした。一応幾つか取り上げてみます。まずは許鳳浩らの二重盲検無作為化比較試験[1]。
確認できる範囲で要約すると、肥満者67名に2ヶ月間、カネボウ防風通聖散細粒エキス製剤7.5g×2/dayを与え、45名のプラセボ群と比較したところ、介入群はプラセボと比較して有意に痩せた(0.8kg:0.1kg)。
肥満者に体重改善効果が示唆されると結論づけていますが、介入群の減少量は臨床的に価値ある減少量ではありません。費用対効果としても最小といえるでしょう。
次いで、Hiokiらの二重盲検無作為化比較試験[2]。抄録しか閲覧できず全文には言及できませんが、肥満女性81名を無作為に2群に分け、両群に24週間1200kcalの食事制限と300kcalの運動を課し、介入群に防風通聖散を与えプラセボ群と比較しました。
介入群は体重及び内蔵脂肪が有意に減少(P<0.01)し、プラセボ群は体重は有意に減少(P<0.05)しましたが、内蔵脂肪は有意差はありませんでした。
やはり抄録だけだと全然わかりません。その気になれば読めるんですがそこまでする気もおきません。
後述する二次分析論文によると介入群はプラセボより3.9kg有意に減量している記載があります[3]。BMIが36.5程度なので仮に平均身長を日本人女性の平均程度と想定して157~159くらいとすると、体重は90kg前後になると思います。
そのデータを基にNIDDKの予測式で試算すると、両群は防風通聖散服用を問わず、恐らく半分の12週で10kg程度痩せますので、24週となるとそれ以上痩せることになります。プラセボ群の内蔵脂肪がベースラインより有意に減少していない結果は、食事や運動のコンプライアンスに障害が生じていたと推察されます。
防風通聖散の効果を調べる上で、肥満者に半年間にも及ぶ強度の高いカロリー制限と持続的な運動を課すことは、服用による効果を曖昧にすると思います。
3.9kgもの差が何故生じたのか、これは防風通聖散に定義づけられている効果・効能というより、服用による食欲への影響、運動への影響、バイアスの影響によって食事や運動の質/量が担保されたから、と理解する方が無理がありません。
精査できていない面もあるので防風通聖散の効果を否定はしませんが、これらの再現研究やより質の高いRCT及びその二次分析が欠けていることから、現時点で減量における効果には根拠が弱いと言えるでしょう。
漢方薬の減量効果は防風通聖散に限りません。様々な漢方薬が同様の効果を謳っています。では最後に防風通聖散を含む漢方薬が減量にどう影響するのか、中編で示した最も質の高い研究手法による論文を紹介してシリーズ記事を終わろうと思います。
Maunderらによる漢方薬と減量に関するRCTの《メタ分析及び系統的レビュー》では、現時点で減量において漢方薬を推奨する証拠は不十分であると結論づけています[3]。
※英語以外の論文は対象外ですが、これは漢方薬研究の落ち度でもあると思います。
多くの漢方薬はプラセボと比較して有意な体重減少をもたらせたが、これらの効果は臨床的に重要といえる体重減少量には達しませんでした(冒頭で挙げた文献がいい例です)。単一の研究しか行われていなかったり、多くの研究が小規模で設計や方法論の質が低く、調査中の生薬の組成についての報告も不十分でした。
この二次分析では上のHiokiらの論文も抽出されていますが、Hiokiらの論文は、盲検化方法を適切に報告していない、漢方薬に関する詳細が欠如している、臨床登録が未登録で有害事象について適切に報告していない、ベースラインまたは結果の比較のためのP値を提供しなかったため、バイアスリスクが高い、といった点が指摘されています(その他にも指摘がありますがHiokiらを指すか不明です)。
以上、漢方薬が減量を促進するという科学的根拠は現時点では不十分です。減量効果を謳う漢方薬の広告を鵜呑みにせず、一度立ち止まって費用対効果として妥当といえるのか、考えてみるのも良いと思います。
※漢方薬全体の批判ではなく肥満に焦点を絞っている点に注意ください。
軽く漢方薬とダイエットについて書くつもりが三部作の長編になってしまいました。漢方薬なんて微塵も興味もなかったのに。いい歳こいたおっさんなんだから、ダラダラと思いついたままに書かずにプロットを考えて簡潔な文章を目指したいものです……けど文才がな……
■Reference
1. 許鳳浩ほか. 漢方薬の代謝への作用の個人差-防風通聖散の二重盲検ランダム化比較試験-. 東方医学 2012; 28: 37-59
2. Hioki C et al. Efficacy of bofu-tsusho-san, an oriental herbal medicine, in obese Japanese women with impaired glucose tolerance. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2004 Sep
3. Maunder A et al. Effectiveness of herbal medicines for weight loss: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Diabetes Obes Metab. 2020 Jan